昨今、生成AIは様々な領域で活用されており、その利便性は教育業界においても例外ではありません。それをビジネスとして取り組もうと考える企業も多いものの、以下のような悩みを抱えるケースも多いです。
「具体的な活用方法がわからない」
「メリットを具体的に知りたい」
そこで今回は、生成AIの大学導入事例や具体的なステップなどを解説します。
【記事を読んで得られること】
- 大学への生成AI導入事例がわかる
- 生成AIを導入するメリットがわかる
- 大学へ導入する際の注意点がわかる
生成AIを大学へ導入する際のメリット、注意点も掲載しているので、ぜひ参考にしてみてください。
生成AIを活用している大学事例10選

生成AIを活用している大学としては、以下10校が挙げられます。
- 近畿大学
- 東北大学
- 立命館大学
- 上智大学
- 武蔵野大学
- 東北工業大学
- 大阪電気通信大学
- 東洋大学
- 立教大学
- 九州大学
実際に生成AIを活用しているモデルケースとなるため、ぜひ参考にしてください。
近畿大学
近畿大学では、大学事務の業務効率化を目的として、生成AIを活用したプロジェクトを導入しています。2024年1月から3月にかけて、Graffer AI Studioを用いた業務支援のトライアルを実施。
具体的には、学生からの問い合わせ対応や学内ナレッジの検索、各種事務処理の補助にAIが使われました。業務領域が明確な分、成果も可視化しやすく、実用段階への移行もスムーズに進められています。
東北大学
東北大学は、生成AIを単体で捉えるのではなく、「コネクテッドユニバーシティ戦略」の一部として包括的に位置づけています。AIの利活用に加え、リテラシー教育や運用ルールの策定にも注力。
学生・教職員に対しては、生成AIの限界やリスク(誤情報、著作権、バイアス等)を明確に伝える教育コンテンツを提供しています。また、生成AIを使用する際のオプトアウト設定など、情報管理面の整備も進められています。
立命館大学
立命館大学では、学生の英語学習支援に生成AIを取り入れた取り組みが行われています。2023年4月から半年間、翻訳ツール「Transable」とChatGPTを組み合わせ、AIに英作文のたたき台を生成させ、それを学生が添削・改善するという形で試験運用されました。
AIの出力をただ受け取るのではなく、「考える・直す」プロセスを重視した活用方針が特徴です。また、学内ではAIの使用ルールが明文化されており、無断転載や過度な依存を防ぐためのガイドライン整備も進められています。
上智大学
上智大学では、AI活用をただの技術導入ではなく、「教育そのものの質向上」につなげる形で展開しています。リベラルアーツ教育とデータサイエンスの融合を掲げ、学生・教員の双方を対象にAIリテラシーを強化するためのセミナーや学内研修を定期実施。
あわせて、教育現場でのAI活用例やガイドラインも整備されており、導入時の不安を軽減する体制が構築されています。
武蔵野大学
武蔵野大学では、生成AIを使ったチャットボットを学内のICTヘルプデスクに導入。Microsoft Azure OpenAI Serviceを活用することで、学内限定のセキュアな環境下でAIが問い合わせ対応を担う仕組みが整えられました。
質問への即時応答やFAQ検索の自動化により、職員の業務負担が軽減されると同時に、利用者の満足度向上にもつながっています。生成AIを単なる情報生成ツールではなく、「問い合わせ対応の一部自動化手段」として明確に位置づけた好例です。
東北工業大学
東北工業大学では、ユーザーローカル社の「ChatAI」を導入し、生成AIチャットの試験運用を行いました。導入にあたり、個人情報を自動でフィルタリングする仕組みや、社内APIとの連携機能が搭載されたツールを選定。
こうした技術的な制約を設けたうえで、学内利用に耐えるかを実証する姿勢が印象的です。生成AIの教育現場導入における“第一歩”を、リスクヘッジとともに着実に進める好事例です。
大阪電気通信大学
大阪電気通信大学では、情報工学科のSlack内にChatGPTを組み込んだチャットボットを設置しています。学生同士の質問・回答に対してAIがサポートすることで、学びのハードルを下げる効果が出ています。
特に、疑問を持ったタイミングで即座にヒントが得られる環境は、AIとの共学を促進する仕組みとして注目に値します。現場の教員からも「学生の主体的な学びを促す」として高く評価されています。
東洋大学
東洋大学では、生成AIを活用した独自のSlackボット「AI-MOP」を導入しています。GPT-4をベースにしたこのシステムは、学生ごとにアクセス管理を設けたクローズドな環境で運用されており、セキュリティ面にも配慮。
学生は授業外の時間でもAIと対話しながら学習を進められるため、反復・内省を促す補助ツールとしての機能が注目されています。導入は教育現場だけでなく、学生自身の学習スタイルの変化にもつながっています。
立教大学
立教大学は、2021年の段階から学生・教職員向けのAIチャットボットを導入し、日常的な問い合わせ対応を自動化しています。
生成AIの普及以前からこうした取り組みを進めており、職員の工数削減と対応の迅速化を両立しています。また、AI教育に力を入れている大学院プログラムとも連携しており、教育と業務双方でAIを活用する土台が整っています。
九州大学
九州大学では、ChatGPTなどの生成AIを学生が自発的に活用する風土が育ちつつあります。プログラミング課題のエラー解析や学習計画の立案などにAIを取り入れ、教職員ではなく学生主導で活用法が広がっているのが特徴です。
学内では、活用事例の共有やガイドライン整備も進められており、ボトムアップ型の導入として他大学からも注目されています。
生成AIを大学で活用するメリット

次は、生成AIを大学で活用するメリットを解説します。
- 業務効率化につながる
- 学習・教育の効率化に役立つ
- 学習環境をパーソナライズできる
- スムーズに情報共有できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
業務効率化につながる
大学職員の問い合わせ対応や事務処理には、定型業務が多く含まれています。生成AIを活用すれば、学生からのよくある質問に対する自動応答や、文書作成のドラフト生成など、従来人手がかかっていた作業を短時間で処理できるようになります。
特に問い合わせチャットや申請書の作成補助などに活用すれば、職員1人あたりの対応件数が増加し、業務全体の生産性が向上します。こうした負荷軽減は、人材不足の解消にも寄与するでしょう。
学習・教育の効率化に役立つ
生成AIは、講義資料の要点抽出や課題のレビュー、学生の質問への即時回答など、教育現場での反復作業を効率化します。特に、英作文の添削支援やプログラミング学習のエラー解説などは、学生の理解を深めつつ教員の負担も軽減できる活用例です。
また、授業中に生成AIを併用することで、学生が“受け身”ではなく、自ら調べ・考える機会を増やすことが可能になり、アクティブラーニング型の教育設計とも相性が良いです。

学習環境をパーソナライズできる
従来の講義形式では、学生一人ひとりの理解度や進捗に合わせた対応は困難でしたが、生成AIを導入することで、個別最適化された学習支援が実現できます。
たとえば、SlackやLMS内に生成AIボットを設置すれば、学生は自分のタイミングで質問ができ、理解できない箇所に対してAIが補助的な説明や例示を提示してくれます。結果として、個別対応の質が担保されながら、教員側のマンパワーは抑制でき、全体として教育支援の質が向上します。
スムーズに情報共有できる
生成AIは、教職員間や学生との情報共有の円滑化にも貢献します。会議録の要約、マニュアルのドラフト化、FAQの自動生成など、「情報を文章化し、共有可能な状態に整える」工程をAIが補助することで、コミュニケーションの負担が軽減されます。
特に新入生や非常勤講師、職員間での情報格差を解消する手段として有効です。加えて、複数部門にまたがる内容でも構造化して整理できるため、全学的な連携もスムーズになるでしょう。
生成AIを大学で活用するデメリット

生成AIを大学で活用する際は、以下のデメリットに注意が必要です。
- 生成AIを大学で活用するデメリット
- 機密情報の漏洩リスクがある
- 業務ミスの可能性がある
- ハルシネーションのリスクがある
- 一時的にコストが増加する
いずれも重要なポイントなので、ぜひ参考にしてください。
機密情報の漏洩リスクがある
生成AIの多くはクラウドベースで動作しており、入力内容が外部サーバーを経由する仕組みです。そのため、学内の個人情報や試験問題、研究データなどをそのまま入力した場合、意図せず機密情報が外部に蓄積・漏洩するリスクがあります。
特に商用AIサービスを利用する場合、オプトアウト設定の有無や、データの保持ポリシーを確認せずに運用することは危険です。導入時にはプライバシー設定の見直しとアクセス制限を徹底しなければなりません。
業務ミスの可能性がある
生成AIが出力した文章や情報をそのまま業務で使用した場合、事実誤認や文脈のずれが発生する可能性があります。具体的に、学務情報や履修制度の説明をAIに任せた場合、古い情報や誤ったルールが含まれたまま配信されてしまうリスクが想定されます。
また、言い回しや文体の違いによって、誤解を招くコミュニケーションが生まれるケースもあります。AIはあくまで補助的なツールであり、最終的な確認や判断は必ず人が行う体制が必要となるでしょう。
ハルシネーションのリスクがある
生成AIは、文脈上もっともらしく見える情報を出力する仕組みであるため、実際には存在しない事実や引用元をそれらしく作り出す「ハルシネーション」現象が発生します。これにより、学生が誤った知識を得たり、研究で引用ミスが起きる可能性も否定できません。
特に教育現場では、誤情報が後に広がるリスクが大きく、出力内容の裏取り(ファクトチェック)と出典の確認が不可欠です。あくまでAIの出力は参考案”として扱うようにした方が良いでしょう。
一時的にコストが増加する
生成AIの導入には、初期費用や運用設計のコストが発生します。たとえば、有料APIの利用料、クラウドセキュリティ対策、ルール整備の人的コスト、研修コンテンツの作成工数などが必要です。
また、現場での運用を定着させるまでには、一定の試行錯誤が伴うため、短期的には「むしろ業務負担が増えた」と感じる場面もありえます。ただし、こうした負担は中長期的な効率化や教育効果向上への投資と捉えるべきであり、費用対効果を継続的にモニタリングする仕組みは必須と言って良いでしょう。
大学が生成AIを活用する時の注意点

次は、大学が生成AIを活用する時の注意点を解説します。
- 適切な生成AIを選定する
- 生成AIの業務範囲を定義する
- 教員と学生向けのルール・マニュアルを作る
- 生成AIツールを定期的に見直す
それぞれ詳しく見ていきましょう。
適切な生成AIを選定する
生成AIと一口に言っても、その特性や対象領域はさまざまです。たとえば、教育支援用途には高精度な文章生成が求められる一方、問い合わせ対応であれば即応性や対話形式の最適化が重視されます。
そして、セキュリティ要件も選定時の重要な判断材料です。個人情報の取り扱いや学内ネットワークとの接続要件に応じて、クラウド型・オンプレミス型・API連携型などを使い分ける視点が必要です。目的と実行環境を照らし合わせたうえで、適切なツールを選ぶことが、安定した運用には不可欠と言えるでしょう。
生成AIの業務範囲を定義する
導入効果を高めるには、「どの業務を生成AIに任せ、どこからは人が関与すべきか」という線引きをあらかじめ明確にしておく必要があります。
すべてをAIに置き換えるのではなく、AIが得意とする定型業務や資料の初稿作成などに限定し、最終判断は人間が担う体制を整えることが重要です。業務プロセスを棚卸しし、「AIによる自動化が可能な領域」と「人的判断が必要な領域」に切り分けたうえで運用することで、トラブルや誤用を未然に防ぐことができます。
教員と学生向けのルール・マニュアルを作る
生成AIの利用に関するルールを明文化し、対象ごとに適切な形で伝えることが欠かせません。特に、教員と学生では生成AIの使用目的やリスク意識が異なるため、それぞれに合わせたガイドラインや利用マニュアルの整備が求められます。
レポート作成でのAI利用可否、授業中のAI使用ルール、出典や引用の取り扱いなど、実際の運用場面に即した事例ベースの説明を盛り込むと効果的です。また、定期的な説明会やリテラシー研修を通じて、全学的な理解と順守を促進する仕組みも検討しましょう。
生成AIツールを定期的に見直す
生成AIは技術進化のスピードが早く、数カ月単位で新しいツールや機能が登場します。そのため、導入したツールを「固定資産」として扱うのではなく、定期的に評価し、見直すことが求められます。
特に、セキュリティ基準の変化、利用者のニーズ、学内リソースとの整合性などに応じて、アップデートや代替ツールは事前に検討しておかなければなりません。また、運用実績をもとにした見直しプロセス(年次レビューや運用改善会議など)を仕組み化することで、ツールの陳腐化を防ぎ、継続的に価値ある活用が可能になります。
大学が生成AIを導入するためのステップ6つ

大学が生成AIを導入する際のステップは、以下6つとなります。
- 活用範囲を検討する
- ツールを選定する
- 管理体制を整える
- ルールを策定する
- 教育・研修を実施する
- 継続的に見直し・改善する
以下の見出しで事前に具体的な手順を把握しておきましょう。
ステップ1 活用範囲を検討する
最初に重要なのは、「どの業務・教育領域に生成AIを適用するのか」を明確にすることです。範囲が広すぎると、現場の混乱や負担増につながる可能性があります。まずは定型業務の効率化や特定講義での試験運用など、成果が測定しやすくリスクが低い領域から限定的に導入し、評価と改善を繰り返す設計を意識しましょう。
段階的に拡張することで、無理なく学内に定着させることができます。
ステップ2 ツールを選定する
生成AIには多様なサービスが存在し、それぞれ得意分野やセキュリティレベルが異なります。たとえば、事務業務の自動化には専用チャットボット型、教育支援には高精度な言語モデル型(例:GPT-4)が適しています。
また、クラウド上でのデータ処理を避けたい場合は、学内限定で運用できるオンプレミス型やAPI連携型の選定が必須です。ツールの選定段階から、目的との適合性と運用負荷のバランスを見極めましょう。
ステップ3 管理体制を整える
生成AI導入において避けて通れないのが情報管理の問題です。利用者が自由にAIに情報を入力できる環境では、意図せず機密情報や個人情報が含まれる可能性があります。
対策としては、利用規約・オプトアウト設定の確認に加え、入力内容のログ管理・アクセス権限の明確化など、技術面と運用面の両側からの体制構築が重要です。学内情報の取り扱い基準とAI利用ルールを統一しておくことで、リスクを最小限に抑えられるでしょう
ステップ4 ルールを策定する
生成AIの運用には、明文化された利用ルールが欠かせません。具体的に「AIの出力は参考情報として扱う」「出典が曖昧な情報は使用禁止」など、誤用を防ぐための指針を明確にする必要があります。
また、学生・教職員のどちらが対象であっても、過度な依存を避けるためのガイドラインや禁止事項の明記は重要です。ルールは一度作って終わりではなく、現場のフィードバックを踏まえた継続的な見直しも求められます。
ステップ5 教育・研修を実施する
ツールを導入しても、利用者が正しく活用できなければ効果は限定的です。特に学生・教員を問わず、生成AIの仕組み・可能性・限界を理解させる研修や教育プログラムを設けることが欠かせません。
セキュリティ・著作権・AI依存リスクなどの基本的なリテラシー教育に加え、具体的なプロンプト例や活用パターンを提示するワークショップ型研修などが効果的です。実践を通じて理解を深める仕組みが、定着を後押しします。
ステップ6 継続的に見直し・改善する
生成AIを活用する環境やニーズは日々変化します。そのため、導入後も定期的なレビューと改善を繰り返す運用体制が不可欠です。利用ログの分析やアンケート収集を通じて課題を洗い出し、活用範囲やルールの見直しにつなげましょう。
また、新たなツールや機能の登場に柔軟に対応できるよう、「技術選定・運用・教育」のサイクルを継続する体制をあらかじめ組み込んでおくのがおすすめです。
生成AI研究に取り組む大学3選

次は、生成AI研究を積極的に行っている大学を3つ解説します。
- 近畿大学 工学部 情報学科
- 東京理科大学 創域理工学部 経営システム工学科
- 名城大学 情報工学部 情報工学科
それぞれ詳しく見ていきましょう。
近畿大学 工学部 情報学科
近畿大学工学部情報学科では、AIやIoTといった先端分野を幅広く学べるカリキュラムが整備されています。特に画像認識・音声認識・予測制御といった実装を意識したテーマが多く、情報処理技術を社会に応用する力の養成が重視されています。
基礎理論だけでなく、Pythonなどのプログラミング実習や、実データを用いた演習も多く、“現場で使えるAIスキル”を重視した教育設計が特徴です。卒業後は、製造業・通信・システム開発など幅広い業界への就職実績があり、産業応用に直結する研究を志す学生に適した環境と言えるでしょう。
東京理科大学 創域理工学部 経営システム工学科
東京理科大学の創域理工学部・経営システム工学科は、AI・データサイエンスと経営工学を融合したユニークな学科構成を持っています。機械学習や予測モデリングを、業務改善・意思決定支援といった“実務課題”に応用する設計志向が特徴です。
研究室では、生産ラインの最適化やマーケティング分析など、AIの利活用が進む分野に対して数理モデルをベースにした研究が行われており、「AIをどう使って意思決定を変えるか」まで踏み込む姿勢が徹底されています。AIをビジネス現場で活用したい学生にとって、戦略的なキャリア形成が見込める環境です。
名城大学 情報工学部 情報工学科
名城大学情報工学部情報工学科では、AI技術の基礎から応用までを体系的に学べるカリキュラムが組まれています。
自然言語処理・音声認識・感情分析など、多様な研究領域を横断しながら学べる点が大きな特徴です。学部段階での研究参加や実験重視の授業も用意されており、プログラミング能力だけでなく、AIを用いて課題を発見・解決する力が磨かれます。地元企業との共同研究やインターンの機会も豊富で、学術と実務の両面でスキルを身につけられる実践型の教育環境が整っています。
生成AIは大学教育でも積極導入されている

本記事では、大学における生成AIの導入事例や具体的なステップ、メリットなどを解説してきました。
生成AIの導入は、すでに企業だけでなく教育現場にも広がりを見せています。特に大学においては、業務効率化や教育支援、学習環境の個別最適化といった観点から、目的別に生成AIを実装する動きが加速しています。具体的な導入ステップは以下の通りです。
【大学における生成AIの導入メリット】
- 業務効率化につながる
- 学習・教育の効率化に役立つ
- 学習環境をパーソナライズできる
- スムーズに情報共有できる
今回は、大学で生成AIを導入する際の注意点についても解説したので、昨今のトレンドやスタンダードを把握して、事業に活かしてみてください。
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